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新型コロナウイルスが猛威を振るっており、進学や留学でも大きく影響されている人も多い事かと思います。これに関して「1655年にはペストが大流行した。当時ケンブリッジ大学の学生であったアイザック・ニュートンは、2年ほど田舎に疎開したときに、リンゴが落ちるのを目撃して万有引力など物理学の驚異的な業績を上げた。これを創造的休暇と呼ばれる。」というような美談はよく引用されるが、正直、歴史上の出来事で偉大過ぎて実感がわきにくいと思います。今回はこの場をお借りし、偶然にも同じくケンブリッジ大学で物理学の研究を行っていた筆者の体験を共有したいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

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確か大学2年生の4月の事であった。大学入試で第一志望に落ち、喪失感にさいなまれていた私は、海外の大学院に進学する方法があることを知った。上手くやれば多くの外国では大学院生は労働者として扱われ、給料も支払われ学費も掛からないらしい。それには主に準備できることは、評定平均(GPA)を上げることとTOEFL iBTのテストのスコアであった。

英語は入学試験の際に勉強こそしたものの、学校名を検索すると関連に「ヤンキー」と表示される全国でも有数の荒れた地域の公立中学の英語の授業にもついていけずに、英作文で"He will is be going~"などと書いているレベルで全国模試の偏差値も30未満。親戚にも大学院はおろか大卒もほぼおらず、英才教育とは勿論無縁。受験の際にどうしても行きたかった予備校の費用の一部は、お年玉で払う状態。言うまでもなく純ジャパ。大学生2年生の時点で、パスポートも持っていなかった。そんな私にとってTOEFL iBTのスコアなんて、頂上が雲の上で見えもしない崖を、素手でよじ登るようなものであった。

さらに日本の大学の試験は何ともやる気が出ず、受験に代表される実力筆記試験文化になじんでいた当時の私は、学部1年生のGPAはオールB程度の3前後であった。一般的な海外有力大学の最低ライン言われるGPA3.6に到達するには、少なくとも3年前期までほぼオールAで行かないと到達できない計算であった。結果が変わるわけもないのに、事あるごとに評定平均を電卓で計算した。テスト範囲のある試験が出来て何になるのか?と斜に構えていた数か月前の自分を殴り倒してやりたいほどであった。GPAが低くても合格した人の話などを探し、無理やり希望を見出していた。

評定平均を高く保ちつつTOEFLのスコアもあげ、卒業研究も真剣に行い、どうにかこうにかアメリカの大学院の出願にこぎつけたが、当時はリーマンショック直後で財政的に厳しい情勢であった。結局、合格自体は出たもののRA等は全くつかず、事実上の不合格であった。当時は奨学財団の奨学金なんて天才しか受からないと思い、出願さえもしていなかった。

スコアや努力という主観的な要素ではない。時代のタイミングという、どうにもならない大きな力が原因であった。なんとも行き場のない思いに苛まれた。東日本大震災による混乱に巻き込まれる中、この時リーマンショック自体も、それに影響される奨学金も、世の中、金が勝負を分けることがあることも思い知らされた。

念ため出願していた修士課程に進学した。助成金を獲得し国際会議で発表。研究助成金を獲得し、後の進学先となる研究室に自力で交渉しインターンを行った。貪欲に有利になりそうなことは何でも行い、TA等も積極的にこなした。

前回の失敗を生かし用意周到に準備をした結果、PhDの出願の際には、奨学財団の留学奨学金にいくつも内定し、最終的に船井情報科学振興財団やブリティッシュカウンシル日本協会の奨学生として採用され、かつノーベル賞輩出数が世界最多の研究所であるケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所のWinton Programme for the Physics of Sustainabilityという特待生制度にも日本人で初めて採用されて海外の大学の博士課程の進路を知り準備開始5年半の後、念願がかなって進学することとなった。

ケンブリッジ大学ではいろいろと衝撃を受けた。天は何物をも与えまくったような信じられないくらい多才で性格もいい人も多数。他国の皇族や貴族の末裔の学生も多くいた。人生のスタートラインとバックアップの環境が、自分とは何次元も違うような人々も数えていたらきりがないほどだ。他にも20代前半で教員になっているものなど、異星人のようなタイプも多く見かけた。自分の凡人さを改めて自覚する日々であった。

研究分野は量子物理学の物性物理。行っていた物質の合成実験で、結果が出たのちに、まとめる段階で再現性が取れないことが判明し、約2年分の研究が丸々無駄になった。進学前には全く聞いていなかった途中ではラボの引っ越しがあったり、実験装置が来るのが遅れ、大規模な故障も起こり、まさに踏んだり蹴ったりであった。自分のテーマではなく、手伝いをした人達の研究は軒並みうまくいった。やれやれである。運も実力のうちといわれてしまえばそれまでだが、サボっているわけではないし、能力的なものでもない(と見ていて少なくとも自分ではそう思っている)。しかし客観的には、当てない限り何もやっていない状態と大差がなくなるタイプの研究は精神的にくるものがあった。一回一回のプロセスに時間がかかり、回数が限られるためにバクチの要素の強くなる傾向にある基礎研究よりも、研究のサイクルが短く、多く発表ができる分野が羨ましく映った。

一方で、分かりづらくサイクルが長い研究を行ったことがきっかけで行ったことも多い。そもそも量子物理学の基礎分野なんて、同じ分野の人でも分かりづらい。立食パーティーやディナーの際にバイオや法律、MBAなど他専攻の人に説明しても”That’s Interesting(それは面白いといってはいるが実際は興味ないです。それ以上続けないでくださいの意味)”といわれる程である。

どうにか面白く分かってもらえないかと「分かりやすい発表とは何か?」を追究した結果、アウトリーチプレゼン大会のネイティブスピーカーを抑えて最優秀賞を何度か受賞、マイケルファラデーがロウソクの講演をしたことで知られるFaraday Lecture Theatre at Royal Institutiton of Great Britainやサッチャーやホーキング等名だたる歴史上の人物が講演したCambridge Unionでの講演の機会にも恵まれた(Fig1)。

Fig1. Three Minute Wonder 決勝にて。Royal Institution of Great Britain

ケンブリッジ大学の生活で得たものも多かったが、先述のように博士課程において最重要な研究自体がうまく行っていなかったわけである。そのため卒業も遅くなった(Fig2, Fig3)。VISAが失効になり、一時国外退去勧告になるほどであった。特に課程終了間際ではPhD取得が確定するまでは、その後のことについて考えられる余裕もなく、手も出せない状況であった。よってPhD取得直後に置かれている状況は、見方によっては「30歳・無職・シャカイジンケイケン無し」であった。無敵に近い強烈なプロフィールである。今思えばコーヒーのシミがついたよれよれのスウェットで、昼過ぎから駅前のゲーセンのメダルコーナーに連日入り浸りタバコをふかしていたりしていたら、より強くなっていたかもしれない。

Fig2. 博士論文の提出。直後に友人たちにシャンパンをかけてもらった。
Fig3. ラテン語で行われる卒業式の儀式

就活中とはいえ、数か月間の無職生活というものは暇なものであった。この暇を利用して、今後幅広く利用できると考えた基本的な機械学習を独習した。強化学習を駆使した自動でゲームが強くなるエージェントプログラムを回し続け、育てていた。この経験も業務にも生きている。なお就職こそしなかったものの、機械学習エンジニアとしてもオファーもいただいた。

紆余曲折はあったが、外資系の日本支社へ就職した。この時の私は「せっかく外国でも認められ始めた矢先にグローバルキャリアは終わった」と内心諦めていた。それでも入社後半年以内にはグローバルプロジェクト(本社案件)に早々に参画することになり、海外出張が続いた。どちらかというと海外進出したというよりも、むしろ日本に一時帰国をしたものの、再びグローバル社会へ呼び戻された感覚であった。これも外国で博士時代に身に着けたものが身を助けた形であった。

そして昇進もして勢いに乗って来たと思っていた矢先、今度は新型コロナウイルスの影響で、海外プロジェクトが軒並み延期・中止になり、引きこもり生活を余儀なくされた。大学を卒業し、無職生活を行った後に、やっと働き始めたかと思ったら、今度は強制引きこもりである。

慣れなのか、それとも麻痺なのか、内心「ああ、またか」と思っていた。現在は引きこもり生活を利用し今後に備え、国際的に通用する資格(いわゆる国際資格)を、既にいくつか取得した。他にも今出来ることに集中して取り組むことにしている。

世の中とは不平等なものである。どうやっても王子や貴族にはなれないし、人種の優位性を身に着けることもできない。今置かれた状況を嘆いても仕方がない。それがたとえ何の前触れもなく起きた世界的なパンデミックであったとしても。どうあがいても配られたカードは変わらない。全てを受け入れて勝負するほかない。

挑戦をすればするほど失敗は増えるし、やらなければ決して遭遇しないような心がえぐられるような思いも増える。実際、ここに書くのも憚られるような故意のハラスメントや、悪質な嫌がらせにも遭った。事実一部はトラウマである。執筆する際に色々思い出してしまい、手が震えたもの、動悸がしたもの、目が潤んだものまであった。故意の加害なんて許されたものではないし、法の下に裁かれてほしいものである。しかし私が被害を受けたという過去の事実は変わらないし、悔やんでもどうにもならない。ただ人生どこでどう転ぶかは分からない。何が良くて、何が悪かったかなんて死ぬまで分からないかもしれない。どんなことでも得た教訓と経験として生かしていきたい。

思い通りになんてなかなかならないし、期待するだけ無駄だと感じることも日常茶飯事。淡い期待どころか、友人や教師には簡単に裏切られ、運にも見放される。

しかし、芸は身を助ける。様々な過程で身に着けた実力やスキルだけはあなたを裏切らない。どこからともなく不意に訪れるチャンスの前に、十分に準備が整っていれば、幸運の女神の前髪を自然とつかむことが出来る。学問に王道がないように、人生に近道はない。出来ることは、日々着々と準備をすすめることだけである。混沌とした世の中の情勢と自分の実力の無さをありのままに受け入れ、日々淡々と次の前髪をつかめるように着々と準備を進めていくこととしよう。

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拙著をお読みいただきありがとうございました。読者の皆様も新型コロナの影響で行き場のない思いをしている方も多い事と思います。読者の中で数年後に以下のセンテンスが頭によぎることが有れば、今回筆をとった甲斐があったように思います。

「ああ、今の自分があるのは、あの時コロナに阻まれたおかげかもしれない」

関連動画:2020夏 慶應大編 海外大学院留学説明会【ジョンズホプキンス大学、ライス大学、ケンブリッジ大学、ノースウェスタン大学】(1:06:55から、学位取得までの過程、アカデミア、企業研究職以外への就職活動、キャリア形成の展望など)https://youtu.be/f-04Dn6JHoA

篠原 肇(シノハラ ハジメ)
ケンブリッジ大学 キャベンディッシュ研究所 博士号取得。プロモントリーフィナンシャルグループ勤務。

個人ブログ https://hajime77.com/

Title IXとは何かご存じでしょうか?1972年にアメリカで制定されたあらゆる性差別を禁じる法律です1,2,3。私は恥ずかしながら自分が被害に遭い、Title IXオフィスに相談するまであまり知りませんでした。Title IXオフィスとのやりとりの中で、被害者を泣き寝入りさせないよう整備されたシステムから学ぶことがたくさんあったので、個人的な経験ではありますが、あるアメリカの大学による対応の一例として共有させて頂きます。もし将来被害に遭った時の力に少しでもなれれば、加えて皆様の教育・研究環境の向上の参考になれば幸いです。(あくまで個人的な経験であること、大学によって対応が異なる可能性があること予めご了承ください。)

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Title IXとは

1972年にアメリカで制定された、連邦が財政支援をする教育プログラムや活動におけるあらゆる性差別を禁じる法律1,2,3。性差別のみならず、性暴力、セクシャル・ハラスメント、ストーキング、親密な関係間の暴力、その他のすべての性的な行為が含まれる2。性差別的な発言4、性的なコメント5、妊娠に対するネガティブな反応3、被害を報告した人への報復5も違法。留学生を含む全学生に適応される1,3。学校にはTitle IXコーディネーターを設置する義務3、性暴力事件の報告後迅速に捜査する義務2、捜査や治療にかかる費用の負担義務があり3、さらに大学で雇用されている人たちは、被害について聞いた場合24時間以内にTitle IXコーディネーターに報告する義務がある2

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Fig1. 大学のキャンパス

私の案件は、1年程前にある教員から性差別的発言をされた、というものです。行動するまで1年以上も経ってしまったのは、

  • 性差別的発言はTitle IXの管轄内なのか
  • こんな小さいことで連絡して良いのか
  • 時効なのでは
  • その教員は私の大学の教員ではないが対応できるのか
  • 行動を起こすことによって私が何か不利益を被るのではないか
  • 重要な共同研究なのだから性差別くらい目をつぶるべきなのでは

といった疑問や懸念があったからです。

それらを何とか乗り越え「とりあえず対応してもらえるのかだけでも聞いてみよう」とTitle IXオフィスに連絡したところ、目から鱗が落ちるような体験を次々としました。

事件の概要を聞かれなかった

「何が起こったのかを話すのはとても辛いことだから、話したい場合を除きこちらからは聞きません。ただ、対応方法を検討するために、その経験がどのカテゴリーに所属するかだけ教えて?」と言われました。

性差別的発言もTitle IXで対応できる

自分の経験がTitle IXの管轄内なのか不安で事件の詳細を話したところ、「Title IXは性差別を禁止する法律なのだからその発言はもちろん違法です。」とのことでした。(ただ、罰則を与える、訴訟を起こすなど法的措置をとるためには、発言の頻度や被害の程度が問題になる場合もあるみたいです5。)

被害の深刻さを”Judge”されなかった

身体的暴力でもないのにそんな些細な事で…と言われるのが怖かったのですが、「まず、その行為自体が違法なので被害の深刻さに関わらず声を上げる権利があなたにはあります。更に、被害の深刻さはあなたしかわからないので、ほかの誰にも判定(Judge)する権利はありません。」と言われました。

1年以上前の案件でも対応できる(ただし時効は存在する)

時効は州によるそうです6。現時点で2年、3年の州が多いですが、1年や6年の州もあるそうです6。(学内案件であれば、法的措置以外の形で対応できる可能性もあるので、時効をすぎていてもTitle IXオフィスへ相談することをおすすめします。)

学外・国外加害者への対応は難しい(これはBad news)

一般的に、加害者がその大学関係者でないと対応が難しくなるみたいです。学外加害者でもアメリカ国内ならTitle IX適用範囲内なので対応は可能だが難しい、国外だと法的措置はとても難しいという印象を受けました。(法的措置以外の対応もあるので、加害者が学校関係者でなくてもTitle IXオフィスへ相談することをおすすめします。)

つまり、学外や国外学会や共同研究先への滞在では、Title IX違反が起きても法的に守ってもらえないリスクを背負っているということです。全くキャンパスから出ないのは不可能ですが、例えば、共同研究先に滞在する際、事前にグループの文化を調べるなどは必要かもしれません。

声をあげることでの二次災害も違法

声をあげることを止めようとする行為、声を挙げたことへの報復は”Retaliation”と呼ばれ禁止されています4

キャリアのために自分の安全と健康を犠牲にするべきではない

一番大事な話です。私は本気で「キャリアのためには性差別くらい目をつぶるべきなのでは」と思っていました。これに対するTitle IX担当者の返答はこうでした。「まず、Retaliationは違法なのであなたは法的に守られている。でも万が一キャリアが…と恐れる気持ちもわかるけど、これはあなたの安全と健康に関わる話であり、何事も安全と健康より優先されるべきではない。」 よく考えたらその通りです。例え著名な教授と働けたからといって、私の心が病んでしまったら私は幸せだと言えるのでしょうか。そもそもそんな精神状態で良い研究結果は出るのでしょうか。今自分の安全と健康を守った方が、長期的に見ればキャリアもどちらも獲得できることになるのではないでしょうか。

上司や関係者に対応を要求する際も事件の概要を説明しなくてよい

対応策を決めた際、上司との対話が必要になりました。私はてっきり事件の概要を説明するのかと思っていたのですが、セカンドレイプなどの恐れがあるので共有しなくても良いそうです。(法的措置をとる場合は必要な場合もあります4。)「Title IXの侵害があったので、○○という対応を要求します。」と言えば十分で、さらに上司と一対一の対話が不安であれば担当者と三者面談の形をとることも、私を全く含まずにメールでの通達もできるとのことでした。

まとめ

私は今回の経験を通じて、「アメリカの大学ではTitle IXのもと如何なる性差別も違法であり、被害者が泣き寝入りしなくて良いよう、さらに声をあげる際の負担が最小限になるよう、法整備がされている」と感じました。

もし今これを読まれている方が被害者であったり、もし今後こういった被害に遭ってしまった場合には、どうか全力で自分の安全と健康を守ってください。そのために、Title IXオフィスに相談に行きましょう。(この記事はアメリカでの体験に基づいていますが、日本でもほとんどの大学に相談窓口が設置されています7,8。)その上でどの手段を選ぶか、もしくは何もしないのも選択ですが、相談にだけはぜひ行ってください。

もしあなたの大切な方が被害に遭われてしまった場合には、セカンドレイプに気を付けてください9。事件の詳細を共有しなくても良いことを伝え、もしその人が共有したい場合、何もJudgeせずに「あなたは何も悪くない」と伝えてあげてください。そして、ぜひTitle IXオフィスへ相談に行くよう働きかけてください。

留意点

この記事では私のごく個人的な経験をもとに、そこから私個人が学んだことを共有しています。

  • 文献を引用していない限り、すべて私の個人的な経験や見解であり、他の方に当てはまるとは限らないこと
  • 私自身Title IXに関して勉強中なので記述に誤りがあるかもしれないこと
  • 今回のTitle IX部署の対応は私の大学に限るもので学校や国によって対応が異なる可能性があること

をあらかじめご了承ください。

参考文献:

1.Know Your IX, “Title IX” https://www.knowyourix.org/college-resources/title-ix/

2.山口智美『「性暴力を禁止する法律を育てていく」/あらゆる性差別を禁じる“Title IX”のコーディネーターに聞く、アメリカの今』https://wezz-y.com/archives/42171

3.Berea College, “Important Facts About Title IX” https://www.berea.edu/title-ix/important-facts-title-ix/

4.Rice University, “Sexual Misconduct Policy” https://sjp.rice.edu/sexual-misconduct-policy

5.American Civil Liberties Union, “Sex Discrimination” https://www.aclu.org/know-your-rights/sex-discrimination/

6.Nicole Wiitala, “Statute of Limitations Under Title IX”  https://sanfordheisler.com/statute-of-limitations-under-title-ix/

7.国立大学協会『国立大学のハラスメント相談窓口』 https://www.janu.jp/univ/harassment/

8.文部科学省『文科省におけるハラスメント対策に関する取組』https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/02/12/1413420_2.pdf

9.白木麗弥『セカンドレイプはなぜ起きる?被害者を守るためには』https://news.livedoor.com/article/detail/13668913/

関連動画:2020夏 慶應大編 海外大学院留学説明会【ジョンズホプキンス大学、ライス大学、ケンブリッジ大学、ノースウェスタン大学】(3:18から、海外大学院の概要、実際の生活、学位取得に向けた課程など)https://youtu.be/f-04Dn6JHoA

小松 夏実(コマツ ナツミ)
ライス大学 電気コンピューター工学科博士課程在学。慶應義塾大学出身。

僕はジョンズ・ホプキンス大学化学科の博士課程に在籍しています.2年前,アメリカの大学院についての情報を集め始めたとき,かけはしの記事もたくさん読みましたし,今でもときどきほかの研究者や院生の皆さんの記事を楽しく読ませていただいています.かけはしを含むいろいろな媒体で海外大学院に進学を決めた理由の記事は多くあり,多様性や新たな環境への挑戦,国際性を養う,世界トップレベルの研究など,海外院進学を決めた理由は人それぞれです.一方で,日本人の留学生が少ないというのもよく聞く話です.海外院に進学する人を増やすべきかどうかとは別に,自分には無縁の話だと思って選択肢の一つとして検討すらしていない人が多いとすればそれはもったいないように思います.海外院に進学した経緯の記事ではそれなりの理由や目標があって進学された方のエピソードをよく見ますが,留学の要素とは別にフラットな選択肢の一つとして海外院を選択した人ももちろんいます.そして, そういう方々は進学理由より研究室や職の記事を書くことが多いように思うのですが,今回, 自由なトピックで記事を書く機会をいただいたので,特に留学らしい要素を期待しているわけでない僕がアメリカの院に進学することになった経緯を共有しようと思います.自分には学位留学は無縁だと思っている層や, 決意というほど強い思いはないけれど興味があって見ている, という方への参考になればと思います.

環境の影響

学位留学に留学としての要素を期待していないと書きましたが,かくいう僕も学部時代に一年の交換留学をしました.選考や奨学金に受かったのでそれらしい理由は並べ立てたわけですが,アメリカの大学に行ってみたい,アメリカの研究室を見てみたい,というふわっとした動機で動き始めて,選考を通るために理由を後付けしたようなものでした.言葉や文化の違いに苦しみつつも一年後帰国したわけですが,そのころには日本の院試と並行してアメリカの大学院の出願準備を着々と進めていました.理由は単純で,大学院進学を真面目に検討する学部3年秋~4年春の間にアメリカにいたから,だと思います.日本の大学にいると周りには日本の大学院生や就活をしている先輩がたくさんいますから,自身もそうする,という人が多いと思います.それと全く同じ流れで,短い期間ながらちょうど進路を考える時期に現地の大学院生と一緒に授業を受けたり研究室で指導を受けるうちに, 自分も周りに流されてアメリカの院への出願準備を始めました.環境の影響は恐ろしいものです.

Fig1. ジョンズ・ホプキンス大学

大学院の決め手となったもの

一方で,交換留学のときに抱いていたアメリカの大学や研究室の様子を知りたいという好奇心は, 帰国するころにはすでに満たされてしまっていました.交換留学で得たものはたくさんありましたが,いわゆる留学へのモチベーションはすでに無くなっている状態でした.実際,出願のstatement of purposeには「アメリカで研究したい」というようなことは一切書いていません.そのころ日本の大学院にも出願しており,学部と同じ慶應の大学院から合格をもらっていました.最終的に進学先を決める際に重視したことは, 以下です.

・物理化学で気相合成クラスターをメインに扱っている研究室であること.

・研究に困らない資金力があり,論文が活発に出ていること.

・博士号取得までの金銭的負担が少ないこと.

一つ目についてはどの研究室も満たしており(だからこそ出願した),二つ目は今のホプキンスの研究室が少しだけ良いかな,という程度でした.結果的に決め手になったのは三つ目でした.修士2年間の学費生活費を実家から難なく出してもらえる状態ではなく,博士後期課程の少なくとも3年間は学振(日本学術振興会の略)などの支援もありますがみんながみんなもらえると保証されているわけではありません.その中で,学費の全額免除と一人暮らしで少し貯金ができるぐらいの給料をもらえる大学院があるとなれば,そちらに行こうと思うのはごく自然だと思います.かくして,興味のあるトピックは日本でも研究でき,留学への熱意があるわけでもありませんが,ボルチモアで博士号取得を目指すことを決めたわけです.

Fig2. ボルチモアのinner harbor

大学院の選択肢を増やす

国内大学院で研究室を移ったり学歴ロンダリングをする人がそれなりいる一方で海外院進学が少数派である理由の一つに,海外院進学は無縁と考えている層の中に学位留学は国際性や環境の変化といった「留学」としての要素を期待してするものだ,という観念があるのではと思います.人により掲げる目標は異なるとはいえ,学位留学の基本の目的は学位を取得することです.その点で短期留学や交換留学とは明らかに毛色が異なります.日本で大学院を変える人は,特別な分野以外では地理的な場所ではなく研究分野や研究環境 / 待遇を比較して進学先を決めると思います.「留学」の要素に興味のない人でも,日本で研究室を変えたり院ロンダをするのと同じ感覚で国外も視野に入れて良いと思うのです.

そして,そのくらいの軽さで海外院を視野に入れると, 選択肢が大幅に増えます.例えば,僕の研究分野の研究室を日本の主要大学で探すと, 片手の指で数えるくらいしかありません.これが,アメリカを選択肢に含めると, 両手の指で収まらなくなります.アメリカ以外も視野に入れれば, もっとたくさんの選択肢が出てきます.そして,選択肢が増えれば増えるほど,自分の重視する条件をより良く満たす大学院を選べるようになります.良い環境で研究ができるかは個々の研究室によりますし,研究だけが人生の全てではないので, 日本が良いとか他のどの国が良いとかは言いません.ただ,単なる進学先の一選択肢として海外大学院が認知され,より自分に合った研究室を選ぶ人が増えることで,個人レベルではより充実した大学院生活が送れ,国レベルでは日本の研究力の増強につながるのではと思います.

日常的に触れる情報の少なさも海外院進学が無縁の選択肢に思える理由の一つですが,今はインターネットでいろいろな人が情報を発信しています.これから大学院を決める方は,両者を対等な選択肢として見るという意味で,海外だから / 国内だからといって良い思いをするわけではない点は常に認識しておくべきだと思います.研究が思うように進まないのはどこにいても同じですし,アカハラも国内外問わずあります.日本での大学院の悪い話は人づてに伝わりますが,海外院進学を後悔していますという記事をわざわざ書く人はまずいません.数年間過ごす研究室ですから,ポジティブな面・ネガティブな面両方含めて中立的に比較することを忘れないでください.

まとめ

海外院進学を国内院進学と並ぶフラットな選択肢として述べてきました.ただ,海外であるからこそのメリット/デメリットは確かにあり,他の多くの方がすでに記事にしてくださっているので, そちらも読んでいただければと思います.自分には海外院は全く無縁だと感じている方にこそ,学位留学は留学の要素を期待する人のためだけのものではないと知ってもらいたいのですが,こういう情報は検索しないと出てこないのでなかなか難しいだろうなと思うところです.この記事にたどり着いた方の中で,なんとなく興味があってニュースレターを読んでいるけれど海外院への熱意があるわけでもなく踏ん切りがつかない,という方への一押しになれば幸いです.

関連動画:2020夏 慶應大編 海外大学院留学説明会【ジョンズホプキンス大学、ライス大学、ケンブリッジ大学、ノースウェスタン大学】(20:56から、留学準備、TOEFL・GRE・推薦状などの出願プロセスについて)https://youtu.be/f-04Dn6JHoA

千葉 竜弥(チバ タツヤ)
ジョンズ・ホプキンス大学 化学科 博士課程在学. 慶應義塾大学出身.