インタビュー企画:デニス・サヤさん(ノースウェスタン大学)

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今回のニュースレターの企画では、アメリカのNorthwestern大学(シカゴ)にて博士課程に在籍しているデニス・サヤさんに話を伺った(聞き手:宍倉真理(McGill大学))。彼女の専門分野はBiomedical Informaticsと呼ばれる領域で、機械学習を医療分野に応用する研究に従事している。具体的には、ゲノム情報や臨床情報をもとに、乳がんを発症するリスク/ファクターを特定する研究などを行なっている。

Q. 留学して数年経ったサヤさんが思う、留学してよかったと思う点はなんですか?

第一に、多様なバックグラウンドを持つ人々に出会えたことが、自分の今の幸せに貢献していると思います。大学院で出来る友人、そして大学の外で出会う人たちも、色々な国から来ているので、自分とは全く異なる環境からきている人への理解が深まりました。これは研究に限った話ではなくて、プライベートな生活面全般が味わい深くなったように感じます。色んな人と出会って考えを相対化することによって、より自分自身を理解できたというのもすごく良かったなと思っています。

また、博士課程に関しては、日本ではやはりお給料を貰いながら大学院に通うというのはなかなか難しい状況なので、アメリカの大学院の大学院に進学することは大きなアドバンテージだなと思います。

友人とハイキングに行った際の一枚

Q. 逆に日本で大学院進学しても良かったかな、と思うことはありますか?

私はこれはあんまり思ったことがないです。やはり、経済面に関して、お給料の出ない日本の大学院で数年間博士学生をするというのは、私にとってはあまり現実的ではありませんでした。また、個人的な話なのですが、ハーフとして日本で生まれ育った身として、大学生の頃に自分のアイデンティティや立場を意識することが多くなっていて、そういう面で海外へ行く方が自分には合っているかな、と考えるようになりました。そのため、日本に残っていたら良かったかな、と思うことはないですね。

ただ、大学院はアメリカでやって良かったと思う一方で、長期的にはいずれ日本に戻るのもいいかな、ともぼんやり思うようになりました。留学当初は、この先当分はアメリカにいると思っていたのですが、アメリカに何年も住んでいるとアメリカ社会の実情や難しさもよく見えてきて、少し考え直す所があります。また、多様性あふれる環境で自分のことを相対的に捉えた時に、やはり自分の中には日本で培った価値観が根付いているのだということにも気づきました。日本にある日本の良さや、自分にとっての居心地の良さ、というものが、一歩離れることでよく見えてきたように感じます。

Q. やはり留学生として日本が恋しくなりますよね。少し話がそれますが、日本に帰ったら必ずすることはありますか?

和食もよく食べるのですが、私の中では人と会うのがとても大事なので、家族との時間を作ったり、会いたい友達にちゃんと会えるようにスケジューリングしたりしています。また、私は色々まとめるのが好きなのでgoogle documentを作って、日頃から一時帰国した際にやりたい事や会いたい人をリストアップしています。

頻度に関しては、コロナの頃は2年半ほど日本に帰らなかったのですが、今は一年に一度、一ヶ月ほど帰るようにしています。これは、私の教授がオンラインでディスカッション出来ればよい、というスタイルの人なのと、研究テーマがドライ系であることの恩恵を受けています。やはり実験のある同級生は、クリスマスの2週間だけ休暇を取る、ということが多いですね。

Q. やはり博士課程生活の大部分が、教授や研究室のスタイルによって決まる、と言っても過言ではないと思うのですが、研究室選びで大事にしたことはありますか? 

私が研究室を選ぶにあたって大事にしたことは二つあります。一つは、もちろん研究分野・テーマが自分の興味とマッチしているか、そしてもう一つは、教授が自分のワークライフバランスを大事にしてくれる人か、です。

博士課程は長いので、その過程で沢山の人のサポートを得ることになると思います。この沢山のサポートのうち、アウトソーシングできるものと、どうしても教授から得ないと成り立たないもの、があると考えています。例えば研究に関してですが、最新のノウハウ等を身につけたい、と思った時には、教授だけでなく、外部の研究者にリーチして教えてもらうことが可能だと思います。一方で、日本に帰国するために休暇を取りたい、や、体調がすぐれないので休みたい、といった際には、直属の先生からの理解とサポートが非常に重要になってきます。私は、ワークライフバランスを大事にしたいと考えているのですが、これに関しては教授が大きな決定権をもっているので、研究室選びでは学生のワークライフバランスを大事にする先生かを重視しました。

私の場合は、一年目にローテーション制度(興味のある研究室に数ヶ月ずつお試しで所属する制度)があったので、そこで研究室や教授との相性を確かめることができました。ただ、ローテーションで数ヶ月所属するだけでは、その研究室の全容を把握しきれないと思ったので、積極的に学生や教授に質問をしていました。それこそ結構踏み込んだ質問をしていて、例えば、「こういうシナリオで、学生と学生の間でオーサーシップの問題があった時には、どの様に解決しますか?」ということを聞いていました。

大学院を始める前にテクニシャンとして2年働いた際に、色んな大学院生の苦労話を聞く機会があったので、注意深く研究室選びをしていた節があったと思います。

由緒正しいノースウェスタン大学の建物

Q. 教授や同僚とのコミュニケーションで心掛けていることはありますか?

教授とのコミュニケーションは、「少し取りすぎかもしれない」と思うくらいに沢山とった方が良いと思います。例えば、あるトピックや概念に関して「自分の理解はこうなのですが、合っていますか?」という様に、小さな躓きでも共有するようにしています。また、研究プロジェクトを進めるに当たっても、「このプロジェクトのこの側面が難しそう」と思ったときはすぐに相談するようにしていて、このように頻繁にコミュニケーションを取るのは、共通の理解を持ってプロジェクトを遂行するのに大事だと考えています。

私の研究室は、個人個人がそれぞれプロジェクトを持って研究を行うので、仕事に関するコミュニケーションを同僚と綿密に取ることはあまりないです。同僚に関しては、ソーシャルな面で色々話して一緒に楽しく過ごすことが多いです。

ただ、今は企業でインターンを行っているのですが、これはチームプロジェクトなので、きちんとコミュニケーションを取るのが大事だと体感しています。また、少し逸れてはしまうのですが、個人的に、博士課程の1人で独立して行う研究よりも、チームで協力し合って行う研究の方が肌に合っているな、と感じています。

Q. アメリカ博士課程に在籍している人たちの話を聞くと、夏休暇中に企業インターンを行う、ということをよく聞くのですが、サヤさんはどの様な経緯でインターンを行うに至りましたか?

私は3年目の終わりと4年目の終わりにインターンを行なっていて、周りを見渡すと多い方だと思います。同じプログラムの学生は、卒業までに一度企業インターンを経験するか、あるいは一度もしない、という人も多いです。ただ、私は元々アカデミアではなくインダストリーのキャリアを目指していたので、卒業までに2回は経験しておきたいと思い、積極的にインターンポジションを探しました。

最初に教授に相談するときは、やはり切り出しづらかったのですが、「これはバシッと早い段階で聞く方が良いな」と思って、2年目の終わり(実際にインターンを行う一年前)くらいに、「来年企業インターンを行いたいと考えているのですが、学生がインターンを行うことに対するポリシーなどはありますか」と聞きました。なかなか切り出しづらいテーマで勇気がいるのですが、早めに聞いて良かったなと思います。

2回目にインターンをしたいと言ったときは、教授の方から博士課程のマイルストーンとしていつまでに何を達成してほしい、ということを明示されました。これは、企業インターンをするか否かだけではなく、教授が自分に対して期待していることを改めて把握するきっかけになって良かったと思います。また、インターンをさせてもらえるようにお願いする際も、「企業のインターンを経験することによって、〇〇が学べて、それは今の研究に繋がる」という様に、説得力を持たせて提案しました。インターンに限らず、何かお願いする際は、自分へのメリットと研究室へのメリットを挙げるようにしています。

Q. ここ数年の博士学生生活を振り返った時に、もしやり直せるのなら、もっと違う風にやりたかった事はありますか?

最初の2年間は、自分の時間を全て研究に注いでいて、それが燃え尽き症候群に繋がってしまったので、もう少しバランス良く研究に取り組めたら良かったのかな、と思います。「今すぐにこのタスクを終わらせなければいけない!」という考えに捉われすぎず、色々試したり学んだりする機会だと思って余裕を持って取り組めていたら良かったのかな、と思います。ただ、この経験を通して、自分のことをより良く知るきっかけにもなったと思います。

Q. 最後に、研究以外の生活を充実させるためにしていることはありますか? 研究室外のコミュニティーに顔を出したりしていますか?

私は日本人コミュニティーを大事にしていて、イベントを企画したりしています。元々、Northwestern大学にはオフィシャルな日本人グループはなかったので、日本人大学院生の学生団体を立ち上げて、色々な分野の人と関わる機会をつくっています。

この学生団体での活動は良い息抜きになっているな、と感じています。研究活動は楽しいのですが、やはり頑張ってもうまくいかないことが多いので、そんな中で、頑張った分だけ成果が目に見える学生団体の活動はすごくやりがいを感じます。もちろん、頑張ってもうまくいかないかもしれないことをやってみるのも大事ですが、その合間に、自分が注ぎ込んだ時間とエネルギーがきちんと成果として返ってくるような活動を挟むのも大事だな、と思います。

あとは、基本的なことですが、趣味をちゃんと持つことが大事だと感じています。それこそ、趣味は時間をかけた分だけそのまま自分の幸福度に直結するので、充実した生活を維持するのに欠かせないと思います。私は読書が元々好きで本を沢山読むのと、最近は下手でも色々やってみようということで、ピアノを弾いたり絵を描いたりしています。

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デニスさんのLinkedInプロフィール: https://www.linkedin.com/in/saya-rene-dennis

ミシガン湖を望む風景