化学系のアメリカ大学院留学-出願と渡米後の生活-
石澤 誠也
ノースカロライナ州立大学化学科
私は2021年現在、アメリカのノースカロライナ州立大学化学科の大学院生として留学しています。この記事では、私の留学体験談として、留学を決意した理由や出願準備、渡米後の大学院生活について書き、自分が学部1〜3年生ころに知りたかったようなことをクリアにできるものとなればと考えております。
プロフィール
私は青森県の高校を卒業し、東北大学農学部に入学しました。高校生のころはお米の品種改良に興味があり、植物の研究をしようと農学部に入学したのですが、電子の流れで反応機構を記述できる有機化学の合理性に魅了され、卒業研究では抗生物質候補低分子化合物の全合成研究に取り組みました。残念ながら1年間の研究でターゲットである最終化合物の合成は達成できませんでしたが、それを目指す過程で気がつくと総工程20の多段階有機合成を経験しており、様々な反応を組み合わせて自在に望みの化合物を合成するための基礎を身につけることができました。その後、理学研究科化学専攻の修士課程に進学し、親水性化合物を取り扱う上で、これまで扱ってこなかった高速液体クロマトグラフィーやマススペクトル、UV、CDなどの分光技術を用いた分子の機能評価を用いた研究も経験しました。
学部三年次:ライス大学でのインターンシップ
このように日本の研究室で研究を行った一方で、学部の三年次では、公益財団法人中谷医工計測技術振興財団の主催する海外インターンシップである中谷RIESに参加する機会に恵まれ、アメリカテキサス州ヒューストンにあるライス大学で1ヶ月間の研究インターンシップを行いました。このとき、私の現指導教授であるOhata教授(当時は大学院生)と出会い、アメリカ大学院への出願時にサポートをいただくなど、非常に得難い人脈を得ることができました。また、このときが私にとって初めての渡米であり、1ヶ月という短期間ではあったもののアメリカ大学院生の生活を実際に経験することができたという点でも非常に有益であったと考えています。
以上の経験をもとに、ライス大学でみたアメリカ大学院生の生活がハードながらも楽しそうであったこと、科学の共通言語である英語で博士号を取得できること、卒業後のキャリアパスが広がるなどの理由から、アメリカ大学院への進学を決意しました。
出願準備
海外大学の大学院に進学する前に日本で修士号を取得するかどうかについて迷う方も多いかと思います。私は結果的に、日本で修士を終えてからアメリカに来ることとなりました。実は、日本の学部生とアメリカの学部生の大学生活には大きな違いがあります。私(日本)のケースでは、学部3年生までは単位を確保しつつもサークル活動やアルバイトを行い、研究室に所属したのは4年生からです。一方、現在私が所属しているノースカロライナ州立大学の研究室の学部生たちは、学部2年生から研究室に所属しています。そのため、大学院への出願前に十分な研究経験を積むことができ、一流誌に論文が掲載されることもザラにあります。私のような日本人学生の過ごし方も、バイトやサークルで社会経験を積み、就職活動などで活かすことができるといったメリットはありますが、海外の大学院に出願する上では研究を始めるのが遅すぎたというのが正直な感想です。一方で、少数ではありますが、日本でもアメリカの学部生のように早くから研究室に所属し、研究をスタートしている学生もいます。このような学生の受け入れ可否は、各研究室の方針や余裕に強く依存します。もし学部1−3年生で、研究をやってみたい、海外留学に興味があるという方がいたら、所属したい研究室の先生にコンタクトをとってみることをお勧めします。
日本で修士をとるメリットとしては、やはり研究経験がより豊富となるため、履歴書の内容も充実し、大学院出願で有利となる点が挙げられます。また、仮に英語でのコミュニケーションに慣れていなくても、強い研究経験があれば渡米後の研究もスムーズに進むということもあると思います。デメリット?としては歳をとり、2年分の学費がかかることです。これらの点を考慮し、進路を考えてみてください。
出願
さて、実際の出願にあたり、私はアメリカの5つの大学院に絞って出願を行いました。Web上にある、アメリカ大学院化学博士課程プログラムのランキングを参考に、上位50校のホームページを見て自分が興味のある研究室を絞り込み、メールで教授にコンタクトをとりました。大学名ではなく、興味のある研究室があるかどうかで選ぶのが基本だと思います。メールにはカバーレターを添付し、研究室に大学院生の枠の空きがあるかどうかを尋ね、これまでの自分の研究経験からその研究室における自分の適性を説明しました。その結果、完全に見ず知らず(コネなし)であったにもかかわらず、複数の教授からぜひZoomで面接をしようという返信をいただき、研究経験を説明するスライドを用意して面接を行いました。このような面接では、まず大前提として、きちんとコミュニケーションがとれる学生であるということを示すのが大切だと思います。これは英語のスピーキング能力についてというわけではなく、相手の話をしっかりと理解し、ときには質問で相手の意図を確認しながら、会話を行うということです。今後約5年間にわたり、指導教員と大学院生という関係で一緒に研究を行っていけそうだ、と相手に思ってもらう努力をするのが大事だと思います。
出願の結果、5校全てからポジティブなお返事をいただくことができました(4校は書類審査で合格、1校は面接のオファー)。どれも有名な大学で、良い研究室がたくさんありましたが、最終的に研究内容への興味から、ライス大学で出会ったOhata教授のいるノースカロライナ州立大学に決定しました。
渡米後の生活
2021年の5月に渡米し、研究を開始しました。渡米時のコロナウイルスパンデミックの影響としては、フライト前日にPCR検査を行い、陰性証明を提出することが求められました。また、渡米後1週間自己隔離を行い、再びPCR検査を行いました。幸いなことにワクチンが普及しており、日常におけるパンデミックの影響はほとんどありません。私は運良く軽微な影響ですみましたが、航空会社や大学からのアナウンスをしっかりとキャッチすることが重要です。
渡米してから今までシェアハウスに住んでおり、自分を入れて3人で暮らしています。きれいな庭とプールもあり、大学まで自転車で15分くらいの距離のため非常に満足しています。家賃が高めですので、学生は数人でアパートをシェアして住むのが一般的です。街の治安は、やはり日本に比べると犯罪が多いと感じます。ただ、治安の悪い場所は大抵決まっていて、そのような場所を避け、複数人で行動するなどを心がけるとまず大丈夫かなと考えています。
庭には猫も来ます
私は早期入学で5月に渡米したため、しばらくは研究のみの生活で、8月からTAと授業が始まります。いよいよアメリカでの大学院生活が本格的に始まるため、非常に楽しみに思っています。
最後に
まとめると、私は日本で修士を取得してから海外の大学院に進学するのもありだと考えています。しかし、もし学部生の早い段階から興味があれば、ぜひ研究室を主催している先生と交渉し、早期に研究を始めるのがいいと思います。また、ぜひ学位留学の前に短期間であっても留学を行い、留学後の生活のイメージを掴んでおくと、安心して博士課程に進学できるでしょう。最後に、大学院への出願は希望研究室とのマッチングが大切です。自分の適性をメールや面接でうまく伝えることができれば、コネなしでも合格は勝ち取れます。入試のプロセスやテクニックなど、研究の純粋な楽しさに比べたら煩わしいものではありますが、自分の望む環境に身を置くためにはやはり必要になってしまいます。本記事が海外大学院留学を志す学生の一助となれば幸いです。