米国修士課程留学から日本企業への就職

私は東京工業大学の生命工学科を2016年に卒業後、米国のカリフォルニア大学デービス校(通称UC Davis)に進学し、食品科学の修士課程を2018年に修了しました。現在は、サントリーホールディングスに入社し、日本で健康食品の商品化業務に携わっています。本稿では、留学中の企業への就職活動についてお話ししたいと思います。海外大学院への留学と聞くと、PhDからアカデミアの道に進むイメージがあるとは思いますが、企業への就職も一つの選択肢として考えられる際にお役に立てれば幸いです。

日本企業vs︎米国企業

職活動を始めるにあたり、日本企業と米国企業どちらに就職するか悩まれるかもしれません。両者で選考方法や採用で重視するポイントが大きく異なりますので、ここではそれぞれの特徴について触れたいと思います。アメリカの就活にはまず、日本のような解禁日が設けられていません。日本では総合職や一般職という大枠で新卒生を一斉採用し、部署に割り振りますが、アメリカではポジションごとに必要なスキルを持った即戦力を採用するため、スポットが空けば随時募集をします。また、日本は研修を通して新入社員育成に力を入れていますが、アメリカは入社後すぐ即戦力として働くことが求められます。この方針の違いは選考方法にも現れており、人間性(ポテンシャル)重視の日本は対人で時間をかけて採用するのに対し、経験や能力重視のアメリカでは書類選考〜面接まで全てオンラインかつ短期間で選考することがあります。また、アメリカはコネがものをいうため、そもそも求人情報が公開されていないケースも多いです。企業はまず大学院の共同研究先や教授との繋がりで人材を探し、コネで採用できない場合に一般募集をかける流れが一般的なようです。研究職を希望する方にとっては、必要な学位も両国で違ってきます。日本では修士卒以上で研究職へ応募が可能ですが、アメリカでは博士号が必要とされ、修士卒で就ける職種は学部卒と大きく変わらないこともあります。このように、日本とアメリカでは選考の進め方や重視されるポイント、研究職への応募条件が異なっていることがわかります。私は日本企業の新人育成に力を入れている点、修士卒で研究に携われる点が自分に合っていると思い、日本企業への就職を選択しました。

ボストンキャリアフォーラム(BCF)

日本人留学生の就職活動の場として、BCFをご存知の方は多いと思います。毎年11月に3日間開催され、日系・外資系合わせて200社以上が参加する世界最大規模の就活フェアです。私は修士2年目の秋に参加し、日本企業の選考を受けました。ここではBCF選考の流れについて、体験談を交えてお話したいと思います。

1) 準備留学先では就活中の日本人が周りにいなかったので、BCFの選考方法や対策といった基本情報を調べることから就活がスタートしました。前述の情報収集を9月に行い、10月上旬にESやレジュメの作成、10月中旬から事前応募を受付けている企業にエントリーを始めました。ES・レジュメについては、何人かに添削頂くことを強くお勧めします。また、予想以上に書類作成に時間がかかるので、今後参加される方は、少し余裕を持ってBCF3〜4ヶ月前から準備に取り掛かると良いと思います。

2) エントリー事前応募にエントリー後、いよいよ選考が始まりました。書類選考を通過すると、応募から1週間程で結果が送られてくるので、Webテストの受験やSkypeでの一次面接、BCF当日の面接予約に進みました。会場での面接枠は早い者順で埋まっていくため、期限前に応募を締切る場合があり、注意が必要です。志望度の高い企業は応募受付開始後、なるべく早くエントリーするのが良いと感じました。また、事前応募の他に、履歴書を当日企業ブースで提出する方法(通称Walk-in)もあるので、志望度に合わせて事前応募とWalk-inを使い分けました。Webテストに関しては、日本での選考ほど重視はされていませんでした。足切りの位置付けではなく、形式的にやっている企業が多かったです。対策は例題を解くなど最低限にとどめ、その分の時間を面接練習などに充てる方が有効だと感じました。

3) BCF当日とその後BCF当日は、予約していた面接やWalk-in応募を行いました。面接の合間も、次の面接の準備やお礼メール作成などに追われ、一日があっという間に過ぎていきます。BCFは本選考の場であり、企業の説明会に参加する時間はあまりないのだと実感しました。BCFと言えば、企業の方とのディナーも醍醐味の一つだと思います。私も一社からBCF前日の夜、ディナーに呼んで頂き、会社の雰囲気や仕事の話などを聞くことができました。翌日に面接を控えていましたが、ディナーで面接官の方にお会いしていたお陰で、当日は落ち着いて臨むことができました。面接では、志望理由や学位留学に至った経緯、留学での苦労について聞かれました。研究職志望でしたが、自分の研究について説明を求められることは少なく、留学していること自体を評価している企業が多かったです。面接結果は遅くとも翌日中に電話やメールで連絡があり、その後12月にSkype若しくは日本の本社で最終面接を受け、選考を終えました。最終的に、エントリーした8社のうち2社から内定を頂く事ができました。

Fig 2. 会場内の様

BCF以外の選考

BCFの他に、日本人留学生向け就活情報サイトを通して1社に10月頃エントリーしました。サイトに掲載している企業についてはES添削や模擬面接も無料で提供しており、BCF前の良い練習になりました。また、掲載企業の中には海外大学を直接訪問して説明会を開催して下さる所もあり、じっくりお話を聞ける利点もありました。説明会前にESを提出すると、Skypeで一次面接、説明会当日に2次(最終)面接を受ける事ができ、短期間で選考を終えられます。訪問先大学は限られていますが、興味のある企業があればBCFと併せてご検討頂くと良いかもしれません。

就活を振り返って

日本での一般的な就活と比べ、かなり早いペースで選考が進んでいきました。就活にかける時間が短くて済むメリットはありますが、応募できる企業(特に研究職の場合)が限られることや、企業の説明会に参加する機会が少ないのは大きなデメリットだったと感じています。OB訪問も難しいため、面接官を通しての会社のイメージしか持てず、企業を選ぶ判断材料が限られている点に苦労しました。そこで就職先を決めるにあたっては、内定を頂いた企業の人事の方にお願いし、冬の一時帰国に合わせて社員面談をセッティングして頂きました。面談では社風や社員の方の雰囲気などを知る事ができ、就職先選びの決め手になりました。

昨今のコロナの影響で、留学中の日常生活だけでなく就職活動のあり方も大きく変わっていることと思います。オンライン化が進むことで、今後はエリアの制限を受けずに選考を受けやすくなるかもしれません。私が受けた当時と状況は違ってしまいますが、就活を検討される方にとって、本稿が少しでもお役に立てれば幸いです。

村瀬 彩華(ムラセ アヤカ)
カリフォルニア大学デービス校 食品科学科 修士課程修了
University of California, Davis, Department of Food Science and Technology