コンピューターサイエンス専攻の海外PhD進学に向けて

筆者の専門は高性能計算と深層学習の理論的側面で、2020年9月から、カナダ東部のモントリオール大学及び、世界有数の深層学習理論の研究グループである Mila の共同PhD プログラムに進学した。本稿では、日本で修士を修了した後、海外のComputer ScienceのPhDへの進学を検討されている方に対して、海外PhD進学に関する話題を提供させていただきたいと思う。

海外PhDへの進学を目指した経緯

筆者が海外のPhDに興味を持ったのは、東京工業大学での研究室配属から師事していた横田理央准教授の影響が非常に大きい。横田准教授は海外でのポスドクや研究職を歴任されており、筆者が学部4年時に横田准教授が専門とされている高性能計算のトップ会議のプログラムに参加した際の印象が強烈に残っている。研究に触れ始めた時期に、国際的に活躍する指導教官の姿を間近で見ることができたのは幸運であった。

もう一人、私に大きな影響を与えた研究者が鈴村豊太郎研究員である。筆者は高校在学時の卒論執筆を通して、大規模な実社会データを高速にリアルタイム処理するという鈴村研究員の研究分野に興味を持ち、東京工業大学を目指した。実際、研究室配属前に鈴村研究員が海外に移動されてしまい、直接指導を受けることは叶わなかったが、その後、海外で活躍をされている鈴村研究員の姿は眩しかった。

その他に、国際的なプログラミング系コンペへの参加や、海外大の短期プログラムなどで、海外の有名大学の同年代の実力とレベルの高さに圧倒されるとともに、海外で修行することも視野にいれはじめ、修士2年時に参加した「突き抜ける人財ゼミ」で海外のPhD進学を決意した、2018年9月のことである。

出願準備

前述の通り、筆者は修士課程までを国内で修了していたため、国内の修士号が認められるカナダ・イギリス・スイスの大学院への進学を目指した。出願のための準備で得た学びは、何事も前々から準備することである。私は修士課程2年の9月に受験を決意したため、国内で余分に1年を過ごすこととなった。決意した後に修士論文執筆などの合間に、自身の興味のある分野の研究グループを調査し、数人の教授にメールでコンタクトを取った。

筆者は学部・修士・修士課程時のIBM東京基礎研究所のインターンシップに際して高性能計算の側面から機械学習技術を高速化することに焦点を当てた研究を行った後、修士二年統計的学習や深層学習の理論よりの側面からの高速化に自身の関心が遷移したこともあり、理化学研究所AIPでのインターンに応募した。このような研究興味の変遷があったため、進学候補の研究室は筆者にとって新しい分野であり、メールを書くまでにかなりの時間を要した。それまでの筆者の研究興味やそれらを裏付ける業績、また志望先の研究室に自身がどのように貢献できるのかをメールで送った後、国際学会や文部科学省のプログラムを利用して実際に会う約束を取り付け、実際に何名かと面接することができた。このとき、幸いなことに外部からの奨学金を確保出ていたことがイギリスの大学院への応募に関してはとても有利に働いたように思う。2019年3月、最初のメールを送るまでに、進学候補の選定、CVの作成、研究計画を練る必要があった。

2019年12月、バンクーバーで行われていた、機械学習分野のトップ会議であるNeurIPS参加中に最初の出願を行った。出願までにIELTSでスコアをクリアし、東工大の指導教員、IBM東京基礎研究所・理化学研究所AIPでの指導教員に推薦状を依頼した。また、Computer Science特有の課題として、GithubのRepositoryの提出を求めるプログラムも存在した。出願準備の詳細については、下記のサイトにスライドで公開している。

合否とその理由考察

最初の出願後の2020年1月、早速第一志望のモントリオール大学とMilaのPhDプログラムの一次選考結果がメールで伝えられ、二次選考としてオンライン面接を受けた。面接前はかなり念入りに準備をし、面接のためのスライドを作り込んだ。2020年2月には、あっさり合格内定をいただけ、面接時に他の大学院も受験を考えていることを伝えていたので、4年間の学費免除と、米国のトップ大学院と遜色ない額のFellowshipのオファーを頂いた。

この後に、Oxford, ICL, UCL, Edinburgh, EPFLなどの出願を検討して準備していたが、最終的に出願を行わなかった。この時点で、私の海外PhD受験は終了した。

実は、モントリオール大と同時期にUBCのPhDにも出願していたが、出願した際に提出したIELTSのスコアが、一部足りていないと指摘され、2020年7月、出願から半年以上経過して不合格の通知が届いた。最終的な、筆者の受験結果は1勝1敗であった。

モントリオール大学は日本では知名度はなく、大学全体としてはその後の受験予定だった大学よりは高いランクではないものの、深層学習分野においては、昨年のチューリング賞を受賞されたYoshua Bengio先生の作った世界有数の深層学習理論の研究グループである Milaが同分野のメッカとなっており、筆者の興味分野で活躍する研究者が世界で最も集まっている研究拠点であったことから、自身の今後のキャリアを考えた結果、モントリオール大と MilaへのPhD進学を決意した。

最後に

今後、Computer Scienceの海外PhD進学を志す方に助言できることがあるとすれば、使えるリソースを最大限活用し、早期に出願に向けて着々と準備を行うということである。昨今の情報系、特に機械学習系の競争はとても厳しく、優秀な世界各国のMScの学生が十分な業績をもって出願してくる。このとき、準備が不十分な場合、合格する可能性は極めて低い。しかしながら、準備にはかなりの時間と労力を要するため、同士を見つけモチベーションを保ちつつ切磋琢磨することが、海外PhD進学には必要であると感じた。最後に、本稿が、これから海外PhDを目指す方の参考の一事例となることを願うとともに、執筆する機会をくださった米国大学院学生会の皆様、私の東工大での7年間を支えてくれた皆様への感謝の意を表したい。

長沼大樹(ナガヌマ ヒロキ)
モントリオール大学・モントリオール学習アルゴリズム研究所
Université de Montréal, Mila (Montreal Institute for Learning Algorithms)